研究科長挨拶

御挨拶
研究科長 山本章博

情報機器は日常生活に浸透しています.本や新聞は紙媒体ではなくタブレット端末を手に取って読む時代が到来しました.スマートホンが普及して電話は単に音声を遠くに伝える機械ではなくなり,デジタル化されたテレビを用いれば,番組を視聴するだけではなく様々な情報を手に入れることができます.スマートカードを用いれば,バスや電車の運賃を始め,様々な支払いができます.ブログやマイクロブログ,あるいは動画サーバーを利用すれば,個人で情報を容易に発信することが可能となり,ソーシャルネットワークサービスを用いれば,しばらく会っていない旧友と連絡をとることも可能です.そして情報機器は様々なセンサーと結合され,それによって集積された大量のデータ,すなわちビッグデータは社会活動や学術活動,企業活動などに利用されています.さらにこれらの活動は新たな情報を生み出し,後に続く活動に利用されるというスパイラルが構成されています.このように高度に情報化された人間の生活を支え,また自身も発展している学術分野が情報学です. 
京都大学情報学研究科は,平成10年4月に学内の5つの部局(工学,理学,農学,文学,総合人間)にあった情報に関する研究分野を改組・統合することにより創設されました.その際に,新たに対象とする学術分野が広く多様であったため,その当時にすでに既存の語であった「情報工学」や「情報科学」ではなく,「情報学」という名称を冠しました.本研究科は,情報学に関する先駆的,独創的,学際的研究の推進,ひいては情報学(そのもの)の建設を通じて,視野の広い優れた人材を育成することを創設の目的にしています.
日本の学術行政において,「情報学」という学術分野名は,平成13年度に文部科学省が助成した科学研究費補助金(科研費)の「系・分野・分科・細目表」に現れています.当初,情報学は総合・新領域系の中の複合領域分野を構成する一分科であったものが,平成25年度の改訂では総合系の中の一分野に昇格し,4つの分科と21の細目が設定されています.本研究科において教育・研究がされている学術分野は,同表で情報学の下に置かれた細目よりも広範になっています.実際,情報処理,計算機科学,電子情報通信、応用数理,生物・生体,認知心理,制御工学,医療,防災,環境,資源,電力・電気工学等の学術分野と連携しながら,包括的な研究を進めています.
本研究科における研究活動は,大型の研究プロジェクトは勿論のこと,若手研究者の活躍が顕著であるという特徴があります.日本学術振興会の特別研究員に採用される博士後期課程学生も多く,情報学の次世代を担う研究者として着実にスタートを切っています.大半の学生は,修士課程であっても,在学中に国内外の学会発表,論文発表を経て学位論文の提出に至っています.学生の研究成果に対して学会などから多数の賞が贈られています.研究科創設当時と比較しますと,概して研究は新しいモードに入っており,基盤技術を応用しながら,社会性をより強く実現する研究へと進むプロジェクトが含まれています.平成25年度には研究科内に2つの共同研究講座を設置し,それぞれ民間企業4社と共同で,先駆的な研究を推進しています.
一方,教育面では,情報学という新しい学術分野における優れた研究者の養成,質の高い技術者の育成のため,情報学・電気電子工学というITCに直接関わる学科・専攻以外から,理系・文系にとらわれず、多様なバックグラウンドを持つ意欲ある学生を受け入れています.海外からの留学生も多数受入れており,日本語能力を仮定せずに修了可能な国際コースも3つの専攻において設置しています.博士後期課程においては,修士課程修了後に企業などの研究所に勤務して研究を続ける人たちを社会人学生として受け入れることも積極的に行っています.本研究科の修了生が活躍する分野も多岐に亘っています.大学や企業研究所において研究職に就くほか,高度技術者として情報・通信に留まらず,製造,金融,放送,サービスなど様々な分野で活躍しいています.
新たな教育プロジェクトとして,平成24年度からは文部科学省の博士課程教育リーディングプログラムが始まり,情報学研究科は「グローバル生存学大学院連携プログラム」と「デザイン学大学院連携プログラム」に参画しました.これらはいずれも修士課程と博士後期課程を連結し,優秀な学生を俯瞰力と独創力を備え広く産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーへと導くために創設された学位プログラムです.とりわけデザイン学は,これからの社会における基盤技術の核となる学術分野と期待され,情報学研究科が中心となって推進しています.また,研究科内だけでなく他学部・研究科の学生に対しても,情報科学・計算科学と情報社会制度・ビジネスに関する知識を有しイノベーションに貢献する人材を育成するための,全学情報教育プログラムの研究・策定と実施を行う組織として,概算要求により平成26年度に高度情報教育基盤ユニットを学際融合教育研究推進センター設置しました. 
現在政府が推進する第4期科学技術基本計画には,「我が国及び世界が直面する様々な課題への対応に向けて,科学技術に関する研究開発を効果的,効率的に推進していくためには,複数の領域に横断的に用いられる科学技術の研究開発を推進する必要がある」とし,その具体的な方策として,「シミュレーションやe-サイエンス等の高度情報通信技術,数理科学,システム科学技術など,複数領域に横断的に活用することが可能な科学技術に関する研究開発を推進する」と提言されています.情報学への期待の高さが伺われます.本研究科は今後も,将来の国際社会を支える基盤構築を目指しながら,研究者・高度技術者として情報学とその関連領域を発展させる修了生を輩出すべく,研究と教育を進めてゆく所存です.皆様のご支援とご鞭撻をいただければ幸いです.