趣意書

生物は、長い時間をかけて環境に適応してきました。その結果、柔軟で洗練された自発的な情報処理システムを持ちます。生物の情報処理システムには既存の機械では模倣することができない特徴がいくつもあります。このような生物のアルゴリズムを学び、システム化することによって生物のもつしなやかさをもった高度情報処理技術の実現が期待されます。

また、生物は細胞というモジュールから出来ています。細胞の中ではゲノム配列情報によって規定される化学反応が起こっています。様々な生物種の全ゲノム塩基配列が明らかになってきました。これにより、生物の構成要素という“単語”の辞書が完成しましたが、構成要素がどのように組み合わさり、生物が動作しているのか、つまり“文法”はよくわかっていません。生物の情報処理システムを明らかにするためには、情報学の観点から生物を捉える取り組みが重要になります。

本シンポジウムでは、生物のアルゴリズムを軸に、巨視的視点から、微視的視点から生物の本質に切り込んでいきます。前者は「システムとして見た生物」、後者は「ゲノム情報から見た生物」に対応します。そして、2つの視点はどのように交わり、どのような生物像を私たちにもたらすのでしょうか。ここでは、これら2つの視点から生物を眺める研究者から最先端の話題を提供します。また、研究者によるパネルディスカッションにより、生物がどのような情報を扱い、どのようなシステムで処理されているのかを解明するために、情報学の考え方や手法が、どのように関わっていくべきなのかを議論いたします。

さらに基調講演では「脳とシステム」に焦点をあてた話題を提供するとともに、情報学が脳科学においてどのように応用されているのかを紹介します。これらにより、生物のアルゴリズムを「解明」するための情報学、「応用」するための情報学という観点で、生物と情報学の接点を考察していきます。

情報学と生物学の融合分野を確立するきっかけとなり、新たな学問領域や産業の創出されることが期待されます。