巻頭言 (平成17年度情報学広報)

国立大学の法人化後、既に1年以上が経過し、情報学研究科や京都大学においてもいろいろな変化がありました。 本稿では、研究科や大学、あるいは国レベルにおける最近の動きの一部をごく簡単に振り返るとともに、 今後の研究科のあり方に関する私の個人的意見を述べることにします。

まず教育については、情報学の未来を切り開き、新しい学際的分野での研究・開発・教育に強い意欲をもって柔軟な 発想で取り組める人材の育成が重要であり、それに向けての研究科の努力が、今後も引き続き求められています。 最近の中央教育審議会の答申等においては、各研究科の育成する人材の明確化、体系的な教育課程の実施などが提言されています。 しかし、大学院教育は、学部教育に比べると各学生の個性・能力や目指す方向に、より強く配慮して行うべきものであると考えられ、 画一的な教育体制や狭すぎる人材育成目標は、かえって日本の将来を支える人材の育成を阻害する恐れがあるので注意が必要です。 しかし一方では、各学生にとっては、少し離れた分野の研究や応用的な研究にも触れる機会をもつこと、 他の研究分野の教員からの助言を受けること、海外の研究者と交流する機会をもつこと、 情報学分野の研究者・技術者・教育者として必要な最低限の考え方や知識を習得することなどは、大変有益であると考えられるので、 過度に画一的な制度としないように配慮しつつ、このような方向を目指す制度の拡充や新設は必要であると思われます。 また、研究科での教育に関する学生や修了生の意見を聞き、それを参考にして教育方法の改善を図っていくことも重要です。 さらに、研究科の目指す人材の育成のために現在の教育組織や教育カリキュラムが最適かどうかについての検討も、 今後継続的に行っていく必要があります。教務委員会では既に研究科の教育に関する学生へのアンケートを実施していますが、 その結果も参考にしながら、上記のような観点からの制度改革を検討していくことが求められています。 また、少子化時代においては、情報学への強い勉学意欲と高い能力をもつ多くの学生が研究科への入学を目指すように、 研究科として、アドミッションポリシーなどの積極的な情報発信や、学部学生向けの説明会・講演会の充実化なども目指す必要があります。 さらに、研究科修了生の活躍の場を広げることも重要であり、とくに博士後期課程修了者については、 より幅広い進路を選択できるように研究科としても努力していく必要があります。また、研究科同窓会との連携をしっかりと保つことも重要な課題です。

研究面では、今後の情報学の一層の発展を目指した各研究室でのさまざまな基礎的研究、 萌芽的研究をしっかりと行っていくことも重要ですが、一方で、研究室や専攻、研究科、大学の壁を越えた共同研究、 プロジェクト研究によって、情報学での新しい分野や学際的な分野に積極的に取り組んでいくことも必要だと思われます。 基礎的研究、萌芽的研究については、運営費交付金の各研究室への配分額は今後減少していくと予想されますので、 各々の教員や研究室には、科学研究費や各種財団の研究助成などに積極的に応募することが求められます。 研究科としても、このような応募を奨励し積極的に支援する体制を検討する必要があります。 また、共同研究、プロジェクト研究については、このような研究がよりスムースに行えるように運営体制を整備し、 また新たなプロジェクト等の立ち上げも支援していくことによって、これらの研究の一層の活発化を図ることが、 研究科として必要です。さらに、今後の学内・学外での連携においては、研究面だけでなく教育面の連携も重要となってきており、 教育連携のあり方についてのしっかりとした検討も求められています。また、情報学に関する新しい分野として、 どのような研究分野を育成、発展させていくべきかについても、つねに検討していくことが必要であると思われます。 さらに、本研究科が国際的な研究・教育拠点としての役割を十分に果たすためには、 学生レベルまで含めた研究者間の国際交流を今後も持続的に発展させていくことが必要ですが、それ以外に、 これらの個人あるいは研究室レベルの交流をベースにして、学術交流協定の締結を始めとする組織としての国際交流を、 研究科として積極的に進めていくことが必要です。

研究科の運営にかかわるさまざまな用務については、各教員はできるだけ多くの時間を教育・研究のために使えるのが理想であり、 それ以外の用務に割く時間は少なくしていくのが望ましいのですが、現実には、そのようにはなっていません。 例えば、認証評価・法人評価や、労働安全衛生法、情報セキュリティ規準、情報公開などに対応するために、新たな用務が発生しています。 一方で、運営費交付金の削減等の影響で、研究科が実質的に任用できる教員数は以前よりも減少しており、 外部資金を活用した教員減少の代替措置も限定的なものとならざるを得ません。従って、これらの用務の中で、 外部への業務委託や新たな時間雇用職員の雇用などによって対応可能な部分については、 研究科の財政状況が許せば、そのような対応を行う方向で検討すべきですが、それ以外の部分については研究科の教員が行わざるを得ません。 このような用務の負担の大きい教員については、何らかの形で処遇に反映させるとともに、 一部の教員に過大な負担あるいは長期にわたる負担がかからないようにすることが必要です。 また、事務部で行うべき用務についても、現在の事務部職員の数では実施が難しい部分に関しては時間雇用職員の雇用等の手段によって対応し、 過大な負担が職員にかかることのないようにするべきです。 また、研究科の教職員や学生の働く場、勉学する場としての施設の整備も重要ですが、 桂への移転は、建物新営の概算要求がまだ通っていないことから平成21年度以降となります。 従って、それまでは吉田地区の関係する各建物や周辺環境の整備をできる限り行っていき、 受動喫煙の防止やバリアフリー化にも努めていく必要があります。このような状況の中で、 研究科としての教育・研究の活力を維持し、教員公募などにおいて魅力ある研究科とするためには、 強い財政的基盤が必要です。しかし、もっとも基礎となる運営費交付金は減少傾向にありますので、 今後は外部資金の活用が重要であると思われます。具体的には、間接経費を有効に利用していくとともに、 間接経費のつかない外部資金についてもオーバーヘッドを徴収して安定した財源の確保を図ることを検討する必要があります。 また、教職員や学生の人権意識を高めることも重要であり、そのための啓発活動も持続的に行うことが求められています。

研究科の組織については、まず、これまで工学研究科等事務部の中にあった研究科の事務室が、 平成16年10月に独立して情報学研究科事務部となりました。独立した部局は、事務長の率いるしっかりとした事務組織をもち、 運営・企画において事務職員は教員と強く連携していくべきであると考えますので、 研究科事務部の人数が不足していて職員の負担が大きい点が問題ではありますが、 この独立自体は研究科にとっては大変よかったと思っています。また、新しい制度として、情報学研究科、エネルギー科学研究科、 地球環境学堂の経理執行用務、人事関係用務を行う3研究科共通事務部が設置されました。 さらに、研究科の運営においては、これまでよりも迅速な意思決定が必要となる場合が増加してきましたので、 そのような状況変化に対応できる運営体制が重要となってきています。そこで、副研究科長2名を置くことによって執行部体制を整備し、 各委員会と連携して多くの問題の処理を図っていますが、今後は一層の体制の整備と効率的な運営へ向けての検討が必要になっていくと思われます。

また、研究科の研究内容・研究成果の情報発信は、研究成果の社会への還元あるいは研究科の社会貢献という意味で、 今後ますます重要になっていくと思われます。情報学関係の専門家だけでなく一般市民や高校生に向けて、 情報学の面白さや有用性を伝えていくことが研究科の大きな使命の1つです。そのために、研究科シンポジウム開催のほかに、 公開講座の開催や研究科ホームページの充実化、広報誌の発行などを通じて、情報発信を積極的に進めていくことが必要です。 また、このような情報発信を通じて、研究科修了生とのつながりを持ち続けることも重要です。

次に、大学や研究科の中期目標・計画に対する法人評価、および認証評価がここ2、3年の間に予定されていますが、 これらは、これまでのいわば自分たちで行う評価ではなく、ある程度決められた枠組みの中での評価機関による評価です。 研究科においては、企画・評価委員会および教務委員会を中心として、これらの評価に対応することになっていますが、 評価結果が今後の運営費交付金等に影響する可能性も高いので、しっかりとした対応が必要となります。 この対応においては、徒に形を整えることに囚われるのではなく、評価への対応を通じて研究科の教育・研究・運営を改善していく、 という姿勢が求められています。

私の任期は平成17年2月までであり、任期があと半年しかない時点で研究科の将来的な事項についての意見を述べるのもあまり適切でないかもしれませんが、 本稿が研究科の構成員にとって多少なりとも有用な情報を与え、次期の研究科長や執行部の方々にとって少しでも参考となれば幸いです。

平成17年8月15日 情報学研究科長 船越 満明