卒業生の声

岡田 満雄

岡田 満雄(おかだ みつお)

Capy Inc. Founder and CEO

2010年 知能情報学専攻 博士後期課程修了

私の所属していた研究室では,今までの固定概念にとらわれず,常に新しいアイデアをインプットし,ダイバーシティを進め,革新的な試みにチャレンジすることに対して極めて寛大でした.そのような環境の中で,私は在学中,暗号を用いたデジタルコンテンツのセキュリティの研究をしておりました.一般的にセキュリティとは難しい,面倒,理解が不可能と言うイメージがありますが,誰にでも理解でき利用できる簡単なセキュリティの基盤となる技術を築き上げたいと思ったからです.この技術を上位概念化し,社会に求められている問題を調査し,具体的なソリューションへと落とし込みました.その成果が,現在私が設立した会社のコア技術となっています.

この技術は日本国内で広がり始めていますが,国境や言語を問わないため同時に世界中にも広がり始めています.在学中,研究ももちろんですが,シードから社会で求められている技術に育て上げる論理的思考とそれを具体化する方法を学べたことが今の私につながっています.

学生の皆様,京都大学では出る杭をとことん伸ばし,その中から本物のイノベーションを起こすことが出来るのです.そして,それが世界を変えることが出来ます.小さなところで収まらず,本学で学んだことを活かし,世界中で発生している社会問題を解決していくことをミッションとして自分の信じる活動に励んでください.

山肩 洋子

山肩 洋子(やまかた よおこ)

情報学研究科 特定准教授

2002年 知能情報学専攻 修士課程修了
2005年 知能情報学専攻 博士後期課程研究指導認定退学
2006年 博士号取得

私は博士後期課程に進学した頃から,家庭での「料理」を対象とした研究を行っています.料理とは,複数の食材を組み合わせ,様々な道具を使って加工し,「料理」という製品にする,いわば「ものづくり」の一つだと考えています.この極めて高度な人間の創作活動を,コンピュータが人から学び,また人に教えるにはどうしたらいいかという問題に学術的な魅力を感じて,博士論文のテーマに選びました.

最近は,世界中で生活習慣病や肥満の問題が深刻化していることから,食にまつわる情報処理研究が国際的にも盛り上がってきており,私も国際学会での発表や企画・運営に参加する機会が増えてきました.京都大学で,世界的に活躍しておられる先生方に学べたこと,また留学生が多く世界に開けた環境で過ごせたことは,いま国際的な場で活動していく上で大いに役立っていると感じます.

また,情報学はもっと女性が活躍できる学問だと思います.一般的に女性が多いとされる化学系や薬学系の友人は,実験対象が少し放っておくと「死ぬは枯れるは腐るは」で休みなしだとぼやいていましたが,コンピュータは「死なない枯れない腐らない!」いま私には小さな子供が二人いますが,子供の病気で仕事を休まなくてはならないときでも,自宅から研究室のコンピュータにログインして研究を進めることもできます.クリーンな環境で,自分の生活に身近な研究テーマに取り組むことのできるこの学問に携わる女性がもっと増えていくことを願っています.

渡邊 春隆

渡邊 春隆(わたなべ はるたか)

環境省徳之島自然保護官事務所 自然保護官

2011年 社会情報学専攻 修士課程修了

私は大学院修了後に環境省に入省し,その後全国を転々としながら,主に自然環境の保全に関わる仕事をしています.2016年2月現在は鹿児島県の離島・徳之島で「奄美・琉球」の世界自然遺産登録を目指し,アマミノクロウサギをはじめとする希少野生動植物の保護や国立公園の指定に関する業務に携わっています.

私が所属していた研究室の分野では,小型のセンサーやカメラを動物に装着して行動を計測する手法「バイオロギング・バイオテレメトリー」によって,その対象の動物が「見えないところで何をしているのか」を解明する研究が進められています.例えば,その動物が「いつどこに動くのか」という情報は,その種の保存,特に保護区を設定する際には欠かせない情報です.当時の研究室には,私のように動物の生態・保全に興味の主軸がある者ばかりではなく,小型センサーの開発やそれにより得られたデータの解析手法を専門とするエンジニア的な人も一堂に会していました.専門分野,出身大学,国籍も様々で,ゼミなどではもちろんのこと,日常の何気ない会話を通しても見聞が広がった気がします.

情報学研究科の裾野は広大です.積極的に他分野の研究室と交流し,多様な学問,多様な人々との出会いを大切にしてください.その出会いは後の人生の宝物になるはずです.

松原 靖子

松原 靖子(まつばら やすこ)

熊本大学大学院 自然科学研究科 情報電気電子工学専攻 助教

2012年 社会情報学専攻 博士後期課程修了

私は熊本大学大学院自然科学研究科櫻井研究室で助教として働いています.主な研究テーマは大規模時系列データの非線形解析と将来予測です.より具体的な目的は,産業,Web, 医療,環境等,様々なフィールドで大量に生成される時系列ビッグデータの中から,重要な情報を自動抽出するためのモデルを提案すること,そして抽出された情報に基づき,将来の動向を高速かつ高精度に予測するための基盤技術を確立することです.

私の目標は,社会において広く浸透するような役立つ基盤技術を作ることです.現実にある大きな問題を解決し,世の中の様々な人々に価値をもたらすような新技術を生み出すことが,研究者である私の最大の責務だと考えています.このような考え方は,社会情報学専攻という環境の中で培われたもので,現在の私の研究理念を支える基礎となっています.私たちの時系列解析技術は,国内外の研究機関や企業の方々から高い評価をいただき,特に複数の企業の方々とは継続的な共同研究を行っています.社会に新たな恩恵をもたらす高度な解析技術の実用化を目指し,日々精力的に研究活動に取り組んでいます.

情報学研究科,社会情報学専攻,そして師である吉川正俊先生には,私が研究者として,そして技術者として生きていくにあたり非常に大切な価値観を教わりました.ここには異なる様々な分野で活躍している先生が沢山おられますが,同時に,情報分野の技術発展と社会貢献への思いに関しては共通の理念を感じます.皆さんも是非,この自由で素晴らしい環境の中でプロフェッショナルな研究活動に取り組んでください.

前田 純

前田 純(まえだ じゅん)

Department of Statistics University of Warwick

2006年3月情報学研究科修士課程修了.外資系証券会社2社の東京支店勤務を経て,2009年に外資系証券会社香港支店に入社.金融派生商品の取引を扱い vice-president にも昇進したが,研究者への夢を求めて2014年に退社.現在は英国 Warwick 大学統計学部の博士課程に在学して博士学位論文を準備中.研究テーマは確率論と偏微分方程式に基づく金融工学.

修士課程を修了してから10年以上経ちますが,現在は英国ウォーリック大学統計学部博士課程で確率微分方程式や準線形偏微分方程式を用いた金融数学の新しいボラティリティモデルの研究をしています.京都大学理学部在学中は抽象的な代数学・幾何学に熱中しており,はじめは解析学が面白いと感じることはありませんでしたが,後の指導教員である磯教授の数値解析の授業に出席し,応用解析学に興味を持ちました.そこで,情報学研究科では学部3年生から入学できる「飛び級入学制度」があるため,この制度で情報学研究科に入学しました.修士課程では偏微分方程式の逆問題のほか学部時代にはあまり接点がなかった制御理論なども学び,専攻での多彩な分野に惹かれました.

修了後は外資系の証券会社にトレーダーとして就職して,金融数学の「使い手」として8年ほど働きました.金融数学の発展は目を見張るものがあり,新しい商品が次々にトレードされたり,見落とされていたリスクが注目されたりすることは日常茶飯です.それらの本質を理解するには数学的な知識が必要であるばかりではなく,その知識を常に新たにしていく必要があると考え,2014年に退社をして再び数学の学修と研究に励むことにしました.

私が情報学研究科の志願者と後輩の皆さんに伝えたいことは以下の3点です.
1. 飛び級入学の有効利用:「大学は4年行くもの」という固定観念に捉われないことです.これによって1年早く,学部の先にあるものを学ぶことがでます.また,飛び級入学した後は博士課程に行かなければいけないということでもありません.私のように,就職する選択肢もあるのです.
2. 常に学ぶ姿勢をもつ:就職したら,ずっと同じ仕事をしなければならないものでもありません.会社の同期の多くもMBAを取得のために留学したり,また大学に戻ったりもしています.もちろん,会社にいながら学ぶことも多々あることでしょう.大切なことは常に学ぼうとする姿勢です.
3. 色々な経験にチャレンジ:今や「日本に居てできないこと」は少ないですが,それでも(短期の観光旅行以外で)海外へ行くことをお勧めします.外国の人とのコミュニケーションもそうですが,海外で生活することで得るものは沢山あります.そして,いろいろな経験をすること.私は研究面では8年間のギャップが有りましたが,その間に社会人としてマーケットで実際にトレードに携わったからこそ閃くアイディアや感覚というものがあり,それが今の研究にも役立っています.

京都大学情報学研究科ではこれからの時代に必要な色々な研究がなされていると同時に,自分の可能性を拡げてくれる様々な機会が提供されています.それらの機会を有効に利用し,充実した学生・研究生活を送られることを祈っております.

今道 貴司

今道 貴司(いまみち たかし)

IBM 東京基礎研究所 Research Staff Member

2009年 数理工学専攻 博士後期課程修了

私は大学院で最適化の研究を行い,2009年に博士課程を修了しました.修了後,日本IBMに入社しIBM東京基礎研究所に配属されました.そして,2014年2月から2017年2月までの3年間は,リオデジャネイロにあるIBMの研究所へ赴任する機会に恵まれました.主に天然資源分野の最適化に関するプロジェクトに従事し,鉱山で運用されているトラックなどの機器のデータを活用した作業効率の分析や,鉱山の採掘スケジュールの最適化のモデルの開発を行いました.またリオデジャネイロの路線バスのGPSデータの分析なども行いました.

私がブラジルに赴任するきっかけは大学院時代の経験でした.博士課程の3回生のときにグローバルCOEの一環で,博士課程の学生が海外の研究室を1ヶ月訪問するプログラムがありました.私は自分の研究テーマと近い研究に取り組んでいたサンパウロ大学の先生の研究室に行きました.その先生と1ヶ月に渡って議論をすることで研究の知見が得られただけでなく,日常生活の中で当時の好景気に湧くブラジルの雰囲気を肌で感じることができました.この経験を通じて,自分の専門分野の最適化が,ブラジルのような新興国で大きく役に立つのではないかという印象を持ちました.IBMは世界各地に研究所を持っており,私はリオデジャネイロの研究所で実際に自分の専門を活かすことができ,いい経験になりました.

情報学研究科には,学生の皆さんが新しい経験ができるように支援するプログラムがあり,将来を考える上で非常に役に立つと思います.ぜひ,様々なことにチャレンジし,充実した研究生活を送っていただきたいと願っています.

鈴木 宙見

鈴木 宙見(すずき ひろみ)

ボッシュエンジニアリング株式会社

2007年 システム科学専攻 博士課程修了

私は,博士課程修了後に日本学術振興会の研究員を経た後,ボッシュエンジニアリング株式会社に勤めております.大学在籍時には状態拘束を持つシステムの制御系設計の研究を行い,現在はディーゼルエンジン電子制御のキャリブレーションエンジニアとして,車両開発現場での試験・顧客対応を担当しています.

大学の研究の時ほどの高度な制御理論は扱っていませんが,排ガス基準を満たすのに電子制御は不可欠で,燃料噴射系や排気ガス後処理装置,また故障検知において,ダイナミクスを考慮した設計が必要となります。製品の精度にばらつきのある中で制御をしなければならないので,ロバストな精度保証の考え方も必要となってきます.また,車両応答性改善のためのゲイン調整などは,研究室の実験機で行うのと同様のことを実際の製品で行うことになります。開発に関わる拠点は世界中にまたがるため,英語を用いる必要があり,国際学会での発表や学術論文の執筆などの経験は入社後から即役立っています.

皆さんが卒業後に働く場所では,多様なバックグラウンドの方々に会うことと思います.そういった中でも,堂々と自分を表現していける自信を身につけてください.

辻野 孝輔(つじの こうすけ)

株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ

2007年 通信情報システム専攻 博士課程修了

現在,株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモに研究職として勤務しております,辻野孝輔と申します.平成19年3月に通信情報システム専攻 中村行宏研究室(現在の佐藤高史研究室)にて博士課程を修了し,同社に入社,現在は入社5年目になります.在学中は音響信号処理の研究をしておりましたが,入社後は,MP3やAACなどのオーディオ圧縮方式の次世代版にあたる,音声音響統合符号化の標準化活動に従事しました.その後,研究テーマをシフトし,現在は音声認識と自然言語理解の技術に携わっています.

このように,多少の関連性はありつつ異なる技術分野に挑戦している中で,学生時代に身につけた内容のうち,数理統計,ディジタル信号処理,通信工学,機械学習,計算機アーキテクチャといった基礎的内容が繰り返し役に立っていると感じます.研究室で学んだUnix/Linux系の計算機スキルも仕事を進める上で必須になっています.

学生のみなさまへ,私の経験は一例に過ぎませんが,学んだ内容が意外なところで役立つこともありますので,講義は幅広く聴いておくとよいと思います.講義の教科書とノートは,研究テーマから遠いものほどぜひ残しておくべきです.研究科で得た専門知識と課題解決スキルを活かし,皆様が社会で活躍されることを心より願っております.