平成26年度

複雑系科学専攻 山本裕名誉教授(応用数理学講座 知能化システム分野)がIEEE Control Systems Society学会会長を務められました

山本 裕(やまもと ゆたか)

複雑系科学専攻 名誉教授

IEEE Control Systems Society President-Elect, President Past President

— IEEE Control Systems Society 学会会長の任期を無事終えられたとのこと,おめでとうございます.まず最初に,IEEEと言うのは世界で最も権威ある電気系学会と伺っていますが,同学会の沿革,専門としている内容について教えて下さい. 

IEEE (Institute of Electrical and Electronics Engineers)はアメリカを中心として発展してきた,電気電子系の学会組織ですが,現在世界で総会員数42万人を擁する世界最大の技術系学会です.もともとはアメリカから発したものですが現在はアメリカの会員数はほぼ全体の半分で,その他の会員は欧州.アジア,オーストラリアなど世界中に分布しており,中でも現在アジアでの会員数の伸びが著しい組織です.このIEEEには41のソサエティあるいはカウンシルと呼ばれる専門別の分科会があり,それぞれ専門分野の特性に合わせて活動しています.身近なところではIEEE 802.11aなどという無線LANのスタンダード仕様を聞かれたことがあると思いますがこれはIEEEの通信関係の人々が協力して作り上げた仕様です.その他 Computer, ComSoc (Communications Society), SP (Signal Processing), Computational Intelligence, Robotics や Biological Systems などそのほとんどすべてが,本研究科のカバーする範囲に重なります.またIEEEの活動には通常の学会活動に加えて地域の連携など様々なものがあります.詳しくはIEEEのホームページhttp://www.ieee.org/index.html を参照して下さい.
Control Systems Society (CSS)は会員数1万弱で41のソサエティの中で平均的な規模のソサエティであり,制御工学・理論,システム工学などの分野をカバーして活動しています.1954年の発足以来,60年余の歴史を誇っています.またIT (Information Theory) や CAS (Circuit and Systems) ソサエティなどと並んで,もっとも理論的であり,かつ現実の問題 に対応しているソサエティでもあります.このソサエティが出版している TAC (Transactions on Automatic Control) は世界で最も権威ある(同時に採択率も低い)制御,システム関連の雑誌として知られていますし,一方 TCST (Transactions on Control Systems Technology) は制御システムの応用ジャーナルとして幅広く引用されています. また最近 TCNS (Transactions on Control of Network Systems) というネットワークの制御に関する新しい雑誌も創刊されました.詳しくはCSSのホームページ http://ieeecss.org/ を御覧ください.

 

— 2012-2014年の在任中に感じられたこと,達成しようと思われたことなどを聞かせて下さい. 

2012年に次期 President (President-Elect),2013年にPresident,そして2014年にPast Presidentとして CSSの運営に携わったわけですが,何と言ってもIEEE全体では会員数42万人の大組織ですから,その運営も大規模になり,そこにソサエティの意見を反映させる,あるいは適切な意見を述べるのも大変です.しかし全体会議で黙って座って聴いていて済むわけでは決してなく,私の在任中にもソサエティの方向を左右しかねない重要案件が何度も取り上げられました.TAB (Technical Activity Board)という全体会議では,議論の方向性がおおよそ決していることも多く,それ以前の委員会に出席して,情報収集するとともにオブザーバーとしてでも発言し,なるべくCSSの存在を主張するようにしました.その他,新しいジャーナルの予算の修正を巡ってIEEE本部事務局とやりあわねばならなかったのも,今では懐かしい思い出です.また表立ってではありませんが,日本人の存在感の増大に努めたいと思い,外交とともに本会議で様々な発言を行いました.どの程度インパクトが有ったかはわかりませんが,少なくとも黙って聞いているメンバーでないよう努力したつもりです.
ソサエティ内では,学会員に CSSを身近に感じてもらえるよう,また学会に参加することの意義を折にふれて訴えました.Control Systems Magazineという会報に年6回President’s Message という2-3ページもののエッセイを書かねばならないのですが,そこでこのような学会に所属することの意義を積極的に訴えていくようにしました.どの程度読まれていたかはわかりませんが,思いもかけぬ大御所の方から賛辞をいただいたり,またあるときは見ず知らずの人から「あなたのメッセージを読んで,IEEEのみならずCSSの会員になることにしました」とメールを貰った時は,満足感を覚えました.

 

— 3年の任期を終えられて,どのようなことを感じられたでしょうか. 

CSSではアジア出身の初めての President を務めることになり,様々な経験をさせてもらいました.その中で,上にも書きましたが,IEEE全体として見ても,またCSSに関しても,日本の国際的地位の向上が望まれることを痛感しています.私は特に愛国主義者ではありませんが,大きな組織では,いろいろな面でグループを構成していって全体の流れを作っていく必要に迫られることも有ります.RAS (Robotics and Automations Society) のようにこの面で成功しているソサエティも有りますが,まだまだ日本の存在感は大きいとはいえません.最近ではお隣の中国などに押されているという印象を受ける時も少なくありません.大学の中での国際化も,英語講義の実施だけではなく,構成員の国際的な場での活躍がより一層望まれる時代に入ってきているかと思います.

 

— どうも有難うございました.ますますのご発展をお祈りします.

CSS年会CDC会議(2013) Awards Ceremony講演での山本教授