平成24年度

社会情報学専攻 岡本龍明客員教授(社会情報ネットワーク講座 情報セキュリティ分野)が2012年6月に紫綬褒章を受賞されました

岡本 龍明(おかもと たつあき)

社会情報学専攻 客員教授

平成24年6月 春の紫綬褒章受賞

— この度の紫綬褒章受賞おめでとうございます.この賞の概要について教えて下さい.

紫綬褒章は,科学技術分野における発明・発見や,学術及びスポーツ・芸術分野における優れた業績等に対して表彰するものとされています.例年,春(4月29日)と秋(11月3日)の2回発令され,今回私は春の褒章として頂きました.一般の方も良くご存じの芸能人や作家,アーティストの方も受賞されるので,マスコミでも取り上げられることが多い賞だと思います.今回は,俳優の役所広司さんや漫画家の萩尾望都さん,作家の辻原登さんなどと一緒にこの賞を頂きました. 紫綬褒章の授賞式(正式には,伝達式と呼ばれます)は,例年は5月中に行われますが,今年は6月6日に東京都内の如水会館で行われ,その後皇居で天皇陛下に拝謁しました.伝達式では,平野文部科学大臣より,紫色の綬(リボン)が付されたメダルと,天皇名の褒状(賞状)を頂きました.

 

— 本賞において顕彰された先生の業績およびその意義について,分かりやすく簡明にご説明下さい.

私の受賞理由は,暗号・認証理論とその応用技術の開発とされています.暗号・認証技術は,現在ではインターネットや携帯電話を安全に利用するための必須技術となっていますが,特に公開鍵暗号系の暗号・認証技術は,インターネットのような不特定多数の利用者が暗号や認証を行う利用形態では必要不可欠な技術として広く使われています.公開鍵暗号において最も代表的な方式は RSA ですが,鍵サイズや処理速度などの点でより実用性に優れた方式が楕円曲線暗号です.私は Menezes, Vanstone と共に,この楕円曲線暗号における攻撃法(MOV帰着)を発見することで,現在実用に供されているすべての楕円曲線暗号方式に採用されている基本的設計指針を示しました.さらに,高速処理を特徴とし,国際標準 ISO などに採用されている電子署名方式も開発しています.一方,現代の暗号理論においては,暗号方式の安全性を厳密に証明することが大変重要となります.私は藤崎と共に,安全性を証明することが可能であると同時に実用性に優れた公開鍵暗号の一般的構成手法を提案しました.この手法に基づき設計した暗号方式は国際標準 ISO などにも採用されており,この構成手法は様々な暗号方式で広く利用されています.

 

— 今後の先生のご研究の発展,またその将来像について教えて下さい.

インターネットなど ICT の利用は,より高度化した形で大きく広がっています.暗号理論もそれに呼応するように,より高度化した形に発展しています.たとえば,関数型暗号や完全準同型暗号といった新世代の暗号は,クラウドを安全に利用する上で大変効果的です.これらの暗号方式を利用することで,データを暗号化したまま,様々な情報処理を行うことが可能となります.つまり,暗号化したデータをクラウドに渡し,クラウド上では暗号化されたままのデータに対して様々な情報検索や情報処理を行うことが可能となるため,プライバシー情報を含むようなデータを安全にクラウドで使うことが可能となります.私の最近の研究は,このようなより高度化した暗号方式,暗号プロトコルおよびその応用を中心に行っています.また,暗号の安全性に関する基本的な問題についても継続して研究を行っていく予定です.

 

— どうも有難うございました.今後のご研究のますますのご発展をお祈りします.

知能情報学専攻 河原達也教授(メディア応用講座 メディアアーカイブ分野)が2012年4月に文部科学大臣表彰を受賞されました

河原達也教授

河原 達也(かわはら たつや)

知能情報学専攻 教授

平成24年4月 文部科学大臣表彰受賞

— この度の科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞おめでとうございます.この賞の概要について教えて下さい.

文部科学省が,科学技術に関する研究開発,理解増進等において顕著な成果を収めた者を表彰するものです.科学技術賞は,我が国の科学技術分野において顕著な功績をあげた者を対象としています.(文部科学省ホームページより引用)

 

— 本賞において顕彰された先生の業績およびその意義について,分かりやすく簡明にご説明下さい.

人間が話している音声を自動的に文字化する音声認識の研究は長く行われてきましたが,国会審議のような自発性の高い,自然な話し言葉を高い精度で認識できるものはありませんでした.本研究では,会議音声の忠実な書き起こしと会議録の文章の違いを分析し,統計的にモデル化した上で,会議録テキストから実際の発言内容を予測するモデル(言語モデル)と,会議音声から音声パターンのモデル(音響モデル)を推定する枠組みを構築しました.これにより,膨大な会議録テキストと音声のアーカイブから自動的に学習できる音声認識システムを実現しました.本研究により,約90%の文字正解率が達成され,この成果・技術に基づく新たな会議録作成システムが衆議院において採用・正式運用されるに至っています.これは,明治時代に我が国に議会が設立されて以来運用されてきた手書き速記制度に代わる一大変革となるもので,世界的にみても,国会の審議音声を直接自動認識するシステムは初めての事例です.詳細はWebサイトを参照下さい.

 

— 今後の先生のご研究の発展,またその将来像について教えて下さい.

今後,講演や講義などの様々な音声メディアへ展開し,様々な人々による情報アクセスの改善に寄与することを目指しています.現在,京都大学OCW(OpenCourseWare)で配信されている講演映像に対して字幕の付与を進めています.また,聴覚障害学生が講義を受講する際に必要な情報保障(ノートテイク)を支援する方法も研究開発しています.その一環で,『聴覚障害者のための字幕付与技術』シンポジウムを毎年開催しています.

 

— どうも有難うございました.今後のご研究のますますのご発展をお祈りします.